【体験談】ワーケーションで見つける移住の「本当の理由」：家族と探る理想の暮らしの軸
移住検討、その「本当の理由」は見えていますか
移住や二拠点生活への関心が高まる中、特にリモートワークが可能なIT企業にお勤めの皆様の中には、具体的な検討を進めている方も多いかと存じます。通勤ストレスからの解放、豊かな自然環境、ゆとりのある子育て環境など、今の場所にはない魅力を求めて移住を考える背景には、様々な理由があるでしょう。
しかし、いざ移住先を探し始めたり、具体的な情報を集めたりする中で、「果たして何のために移住するのだろう」「移住して、自分たち家族は本当にどうなりたいのだろう」といった、根源的な問いにぶつかることはないでしょうか。漠然とした憧れだけでは、理想と現実のギャップに直面したり、移住後の生活で後悔したりする可能性も否定できません。
そこで有効な手段となるのが「ワーケーション」です。単なるお試し居住や観光ではなく、移住を最終的な目標・視野に入れたワーケーションは、その場所のリアルな生活を体験するだけでなく、自分自身や家族にとっての「移住の本当の理由」や「理想の暮らしの軸」を見つけ出すための貴重な機会となり得ます。
この記事では、ワーケーションを通じて移住の軸を明確にしたご家族の体験談をご紹介しながら、そのプロセスで役立つ視点や具体的な活用ポイントについて掘り下げていきます。
ワーケーションが「移住の軸探し」に適している理由
なぜ、ワーケーションが移住の軸探しに役立つのでしょうか。それは、ワーケーションが「非日常」と「日常」の要素を併せ持つからと考えられます。
まず、住み慣れた場所を離れることで、普段の生活では気づけなかった自身の価値観や、現在の生活における不満や課題を客観的に見つめ直すことができます。また、候補地という具体的な環境に身を置くことで、「もしここに住んだら」という想像が格段にリアルになります。
同時に、リモートワークを行うことで、そこで「働く」という日常行為を体験できます。仕事環境の快適さ、生活インフラの利便性、家族がそれぞれの時間を過ごす様子など、具体的な生活シーンを通じて、理想の暮らしに必要な要素が何であるかを肌で感じ取ることができます。
このように、ワーケーションは「思考の転換」と「現実の体験」を同時に叶えるため、移住の目的や軸を内省し、明確にするための優れたツールとなり得るのです。
体験談：ワーケーションで「理想の暮らしの要素」をリストアップしたAさん家族
東京都内のIT企業にお勤めのAさん（30代後半）は、妻と小学生のお子さんとの三人家族です。以前から自然豊かな場所への移住に憧れがありましたが、具体的に「なぜ移住したいのか」「移住して何をしたいのか」が曖昧で、なかなか検討が進まなかったそうです。
「漠然と『自然の中で子育てしたい』とか『通勤時間をなくしたい』とかは考えていましたが、それって本当に移住で叶うんだっけ？東京でもできることあるんじゃない？とか、色々な疑問が出てきてしまって。妻とも話すけれど、お互いの『理想』が具体的に見えていなくて、話が深まらない状態でした」とAさんは当時を振り返ります。
そこでAさん家族は、「移住先候補の下見」というよりは、「自分たちの理想の暮らしを具体的に考えるヒントを得る」という目的で、地方のコワーキングスペース付き宿泊施設でのワーケーションを計画しました。
ワーケーション中、Aさんは普段通りリモートワークを行い、奥様とお子さんは周辺を散策したり、地域の図書館や公園を利用したりして過ごしました。夕食後には、その日体験したことを家族で話し合う時間を意識的に設けたそうです。
- 「この辺りは、帰り道にきれいな星が見えるね。東京だとこんなに見えないな」
- 「公園で会った地域の子たちが、すごくのびのび遊んでいたのが印象的だった」
- 「近くに地元の人が集まる小さな直売所があったけれど、ああいうところで買い物を楽しむ暮らしも良いかもしれない」
- 「今日の仕事中、窓から緑が見えて集中できた気がする。でも、オンライン会議の時に少し電波が不安定だったな」
このような些細な気づきや感想を共有する中で、Aさん家族は「私たちは、自然に近い環境で、地域の温かさを感じながら、家族それぞれが自分の時間を大切にできる暮らしを求めているのかもしれない」という「軸」のようなものが見えてきたと言います。
特に大きかったのは、「単に広い家に住むことや、自然がある場所で暮らすこと自体が目的なのではなく、そこでどんな時間を過ごし、家族がどう関わり合うか、地域とどう繋がるかといった『暮らしの質』を重視している」という点に気づけたことでした。
このワーケーションを通じて、Aさん家族は「移住で叶えたい理想の暮らしの要素リスト」を作成しました。具体的に言語化することで、移住先を選ぶ上での優先順位や、情報収集すべきポイントが明確になったそうです。以前は自治体の支援制度や物件情報ばかりに目が行きがちでしたが、この体験後は地域のコミュニティ活動、子育て支援の詳細、日常的な買い物の利便性など、より生活に根ざした情報を重視するようになったと言います。
「このワーケーションがなければ、表面的な条件だけで移住先を選び、後から『こんなはずじゃなかった』と後悔していたかもしれません。自分たちにとっての『理想の暮らし』の解像度を上げる。そのためにワーケーションは本当に有効だと感じました」とAさんは語ります。
「移住の軸」を見つけるためのワーケーション活用ポイント
Aさん家族の体験談を踏まえ、「移住の軸」を見つけるためにワーケーションをどう活用すれば良いか、具体的なポイントを整理します。
1. 明確な「問い」を持って臨む
漠然とした移住への憧れを抱えたままではなく、「今の生活で満たされていない要素は何か」「移住で解決したい課題は何か」「どんな時に幸せを感じるか」「どんな人との繋がりを求めているか」など、自分や家族への「問い」を事前にリストアップしておきましょう。ワーケーション中にこれらの問いに対する答えを探す意識を持つことが重要です。
2. 家族で「理想の暮らし要素」を話し合い、言語化する
ワーケーション中は、仕事や日常のタスクから少し距離を置き、家族とじっくり話し合う時間を作りましょう。お子さんのいる家庭であれば、「どんな場所で遊びたい？」「学校以外でどんなことに興味がある？」など、お子さんの目線での希望も聞き出してみてください。出てきたキーワードを書き出し、共通認識を持つことが軸の言語化に繋がります。
3. 日常を模倣し、リアルな生活を体験する
観光気分で終わらせず、移住後の日常を想定した行動を意識しましょう。スーパーや地域の商店での買い物、図書館や公園の利用、地域のイベントへの参加、通勤・通学時間帯の交通状況の確認など、生活者の視点で地域を見て回ることが大切です。
4. 地域の人との交流を深める
可能であれば、地域の人と積極的に交流してみてください。地元の飲食店や商店の店主、地域の活動に関わる人など、住民だからこそ知る地域の魅力や課題、雰囲気を感じ取ることができます。移住者コミュニティがあれば、先輩移住者の体験談を聞くのも良いでしょう。
5. 内省と記録の時間を設ける
ワーケーション中に感じたこと、家族と話したこと、地域から受けた印象などを、一人でじっくりと振り返り、記録する時間を作りましょう。写真や動画、メモなどが、後から見返した時に多くの気づきを与えてくれます。
ワーケーションで直面するかもしれない課題
ワーケーションで移住の軸探しを行う際、いくつかの課題に直面することもあります。
- 仕事との両立の難しさ: 普段と異なる環境でのリモートワークは、想定以上に集中できなかったり、必要な設備が不足していたりする場合があります。事前に仕事内容を調整したり、ワークスペースの環境をしっかり確認したりする準備が必要です。
- 家族間の温度差: 家族全員が同じように移住に積極的とは限りません。特に思春期のお子さんは、友達や今の環境を離れることに抵抗を感じることもあるでしょう。ワーケーションを「移住ありき」ではなく、「新しい場所での楽しい体験」として捉え、家族それぞれの興味関心に寄り添ったプランを立てることが大切です。
- 「軸」が見つからない焦り: 一度のワーケーションで明確な答えが見つからなくても落ち込む必要はありません。複数の地域でワーケーションを重ねたり、目的を変えて再訪したりする中で、少しずつ自分たち家族にとって大切なものが見えてくることもあります。
これらの課題もまた、移住後のリアルを垣間見る貴重な経験となります。課題にどう向き合い、どう乗り越えるかを家族で話し合うプロセスそのものが、移住への準備となるのです。
まとめ：移住の「本当の理由」を見つけるワーケーションという旅
移住は、人生における大きな決断の一つです。その決断を後悔しないためには、「なぜ移住したいのか」「移住してどんな暮らしを実現したいのか」という、自分たち家族にとっての「本当の理由」や「理想の暮らしの軸」を明確にすることが非常に重要です。
ワーケーションは、単なるお試し居住に留まらず、この根源的な問いに向き合い、家族で共に答えを探求するための有効な手段です。日々の忙しさから少し離れ、新しい環境に身を置くことで得られる気づきや、家族との深い対話、地域との交流は、移住の目的を鮮明にし、具体的なアクションへと繋がる大きな力となります。
これから移住検討を本格化させる方も、すでに候補地を絞り込んでいる方も、ぜひ一度「移住の軸探し」を目的としたワーケーションを計画されてみてはいかがでしょうか。それは、自分たち家族の未来の暮らしをデザインするための、有意義な旅となるはずです。